結論:大腸カメラを見学するときは、患者さんのお尻の正面・至近距離は避けて、術者の後ろか一歩引いた位置から見ましょう。特にスコープを抜去する瞬間は、肛門周囲の粒子が一気に増えることが研究で示されています。
内視鏡室で大腸カメラの見学をしていると、患者さんのお尻のすぐ近くで、身を乗り出すようにのぞき込んでいる人をよく見かけます。見学に来るのは、研修医の先生、医学生、看護学生さん、新しく配属されたスタッフさんなどです。熱心なのはとてもいいことです。
ただ、私は見学者には「術者の後ろに回るか、お尻の正面を避けた位置から見るように」と伝えています。理由はシンプルで、飛沫が飛ぶからです。
とはいえ、これを意識している人は多くないと思います。そこで今回、「これって本当にデータの裏付けがあるのか?」と疑問に思ったため、論文で確認してみました。内視鏡の見学を控えている方、指導する立場の方の参考になればうれしいです。
この記事を書いている人:消化器内科医(内視鏡指導医)。日々内視鏡室で後輩や学生指導を行っています。
大腸カメラの見学はお尻の近くを避けるべき理由
大腸カメラでは、腸にCO2や空気を送り込んで広げながら観察します。検査中には、おならとして出るガスや、腸に残った水分・便汁が肛門から出てくることがあります。
つまり、飛沫の「発生源」は患者さんのお尻です。そこにいちばん近く、しかも正面に顔を置いてしまうのが、身を乗り出して見学している人なんですね。
しかも見学者は、術者や介助者と違ってフェイスシールドやゴーグルをしていないことも多いです。感染防御をしていない人が、いちばん発生源に近いかもしれない場所にいるわけです。
大腸カメラで飛沫は本当に飛ぶのか?論文で確認
新型コロナの流行をきっかけに、内視鏡検査で飛沫やエアロゾル(空気中を漂う細かい粒子)がどれくらい出るのかが、世界中で調べられました。大腸カメラに関係する主な結果を紹介します。

スコープを抜く瞬間に粒子がいちばん増える
英国の研究では、肛門の近くに粒子カウンターを置き、検査中のどの場面で粒子が増えるかを細かく分析しました。
スコープを入れるときは室内の背景レベルの約10倍、スコープを抜くときは約27倍の粒子が観測されました。抜去時は挿入時の約3倍です。
検査の最後、スコープが肛門から抜ける瞬間に、腸にたまったガスが一緒に出てくるイメージを持つとわかりやすいと思います。
同じ研究では、ほかにも粒子が増える場面がありました。お腹を手で押す用手圧迫で約9.6倍、送気や直腸での反転操作で約7.7倍です。挿入、抜去、用手圧迫は、いずれも強い咳と同じくらいの粒子を出していました。
また、1件あたりの粒子の総量は、大腸カメラのほうが胃カメラの約2.4倍でした。1分あたりでは胃カメラより少ないのですが、検査時間が長いぶん、合計が多くなるわけです。
ときどき術者・看護師の顔の高さまで届く
香港の研究では、117人の大腸カメラで、肛門から10cmの位置と、術者・看護師の口元の3か所で同時に粒子を測りました。
検査全体で見ると、術者と看護師の口元では粒子の有意な増加はありませんでした。ここは安心材料です。
ただし、約7%(117例中8例)では、スコープを抜くタイミングで肛門部と術者・看護師の顔の高さの粒子が同時に急増していました。毎回ではないにしても、一定の割合で「顔まで粒子が飛んでくる」ことがある、ということです。
この研究では、研修医が行う検査のほうが専門医より粒子が多かったことや、CO2送気や浸水法で粒子が少なかったことも報告されています。
フェイスシールドから腸内細菌が見つかった
英国の別の研究では、検査ごとに術者と介助者のフェイスシールドを拭き取って培養しました。
すると、大腸菌などの腸内細菌が、実際に着用したシールドから見つかりました。術者のシールドからも、介助者のシールドからも出ています。一方、術者の約2m後ろに置いただけの対照のシールドからは、腸内細菌は出ていません。
また、この研究で知っておくべきことは、目に見えて汚れていたシールドは1枚もなかったという点です。言い換えると「何も飛んでこなかった」と感じていても、実際には飛沫を暴露している可能性がある、ということです。
また、ポリープ切除などの処置がある検査では、処置なしの検査より口や腸の菌による汚染が有意に多くなっていました。
患者さんに近いほど汚染されやすい
米国の研究では、午前中の検査のあいだ置いたフェイスシールドから菌が出た割合を、場所ごとに比べています。術者の顔は約46%、約1.8m離れた壁は約21%、別室の待機スペースは16%でした。患者さんに近いほど多いという結果です。
しかも、術者が「かかった」と自覚した飛沫はごくわずかでした。近いほど多く、しかも本人は気づかないという点は、先ほどの研究と同じ傾向です。
国内でも、弘前大学の研究で、内視鏡医のマスク表面から細菌が検出された割合は約13%で、ポリープ切除などの治療内視鏡で高かったと報告されています。
検査が続くと、部屋の粒子は少しずつ蓄積する
中国の内視鏡室で行われた研究では、始業前と、始業から1時間後、2時間後、3時間後に室内の空気を測りました。粒子の濃度はどの大きさでも時間とともに増え、3時間後には始業前の約1.5倍になっていました。

空気中の菌の量は、作業時間が長いほど、見つかったポリープの数や生検の回数が多いほど増加しています。ただし、菌の量は測定期間を通して、すべて基準内に収まっています。
この研究は、特定の位置ではなく部屋全体の空気を見たものです。細かい粒子は、お尻のまわりだけでなく、部屋全体に少しずつ蓄積していくと考えるほうが自然だと思います。
正直に言うと「見学者の立ち位置」を比べた研究はない
私が調べた範囲では、「見学者がどこに立つと安全か」を直接比べた研究は見つかりませんでした。
フェイスシールドの研究でも、著者自身が「汚染の方向や距離による違いは調べていないので、今後の課題」と書いています。また、この研究では、お尻にいちばん近くで生検やポリープ切除を手伝う介助者のシールドからも大腸菌が出ています。
今回調べた複数の研究を合わせ、私自身の考えは以下のとおりです。
確実なことは言えませんが、複数の研究からわかっていることがあります。
✅ お尻に近いほど菌がつきやすく、抜去の瞬間は特に飛沫が増える
✅ 図の範囲には、飛沫が直接届く可能性がある
✅ 細かい粒子(エアロゾル)も出ていることは測定されているが、どこまで広がるかはわかっていない
✅ 飛沫を浴びることでどんな健康被害が起きるかまでは、はっきりしていない
見学するときは、図の範囲、特にお尻の正面は避けて、術者の後ろから見てください。術者や介助者として入るときは、この範囲から離れられません。「見えなくても届いているかもしれない」と頭に入れておくだけでも、動き方は変わると思います。
大腸カメラを見学するときの注意点
見るべきはお尻ではなくモニター
大腸カメラで学ぶべきものの大半は、モニターに映っています。お尻に近づいても見えるのはスコープの出し入れだけです。手元の操作を見たいなら、せめて介助者側の少し後ろから見た方がいいです。ただ、術者の後ろに立った方が質問はしやすいです。
抜去の瞬間は一歩下がる
観察が終わって直腸からスコープが抜ける場面は、粒子がいちばん増えるタイミングです。直腸がみえたら、半歩でも下がってください。これだけでもかなり違うはずです。
目の防護をしておく
マスクはしていても、目は無防備な見学者がほとんどです。飛沫は目の粘膜からも入り得るので、近くで見る可能性があるならアイガードやフェイスシールドをつけておくと安心です。
ポリープ切除などの処置がある検査は、処置具の出し入れもあり、汚染が多くなることが報告されています。処置の見学では特に距離を意識しましょう。
術者・介助者として入るとき、指導する側ができること
術者や介助者は、見学者と違ってこの範囲から離れられません。だからこそ、知っておくだけで動き方が変わります。
✅ 目の防護をする
✅ 抜去前にしっかり脱気(吸引)しておく
✅ 抜去や処置具を抜く瞬間は、肛門に顔を近づけない
✅ 介助者は、用手圧迫のときも肛門に顔を近づけない
✅ 処置具を抜くときに、鉗子口をガーゼで覆う人もいる
✅ CO2送気を使える施設なら活用する
✅ 見学の最初に、見学者へ立ち位置を一言伝える
特に用手圧迫は、介助者がお尻の近くで行うことが多い手技です。研究でも粒子が増える場面として挙がっていたので、介助に入る方は覚えておいてください。
鉗子口をガーゼで覆うのは、当院でもルールではありません。気をつけている人が個人的に行っている工夫で、少数派です。それでも、処置具を抜く瞬間に飛沫が出ることを意識するきっかけにはなると思います。
私の施設ではCO2送気です。研究では浸水法でも粒子が減っていましたが、これは施設間での方針の違いもあります。
抜去前の脱気は、患者さんのお腹の張りを減らすためにとても重要です。しかも、見学者やスタッフの安全と、患者さんの快適さの両方につながると考えています。
コロナが落ち着いた今も、この知識が必要な理由
ここまで紹介した研究の多くは、新型コロナの流行をきっかけに行われたものです。では、コロナが落ち着いた今、気にする必要はないのでしょうか。
私は、これはコロナのための知識ではないと考えています。
そもそも「標準予防策」の話
医療の現場では、血液・体液・排泄物は、診断に関係なく感染性があるものとして扱います。飛沫が予想される手技では、目や顔を守ります。これは本来、コロナよりずっと前からの基本です。コロナは、それを数字で確かめる研究を増やしてくれただけだと思います。
便の中に何がいるかわからない
便にはノロウイルスや耐性菌など、さまざまな病原体が含まれ得ます。でも、大腸カメラを受ける患者さんが何を持っているかは、ほとんど調べられていません。出血すれば、血液にも触れることになります。
見学者は別の患者さんのところへも移動する
見学したあとで、多くの人は病棟や外来に戻ります。自分が発症しなくても、白衣や手を通して病原体を運ぶ側になるかもしれません。
「害が証明されていないなら、いいのでは?」
そう思う方もいると思います。実際、飛沫を浴びた人にどんな健康被害が出るかまでは、はっきりしていません。
ただ、医療の感染対策は「害が証明されたら守る」ではなく、「わからないから、一律に守る」という考え方で作られています(スタンダードプリコーション)。しかも今回の対策は、一歩下がる、立ち位置を変える、それだけです。ほぼゼロのコストで避けられる不確かなリスクは、避けるべきでしょう。医療者としては、それが自然な判断だと思います。
もう一つ付け加えると、少し離れて見ることは、患者さんへの配慮にもなります。
まとめ:見学は術者の後ろから、スコープ抜去時には一歩下がって
大腸カメラでは、特にスコープを抜く瞬間に肛門周囲の粒子が増え、ときには術者や看護師の顔の高さまで届くことが研究でわかっています。患者さんに近いほど菌がつきやすく、しかも本人は気づかないことがほとんどです。
見学者の立ち位置を直接比べた研究こそありませんが、「お尻の正面を避ける」「距離をとる」「抜去時は下がる」は、今あるデータから十分に理にかなった行動です。術者や介助者として入るときも、この知識があるだけで動き方が変わります。
せっかくの見学、安全な場所からしっかりモニターを見て、たくさん学んでいってください。
参考文献
・Phillips F, et al. Aerosol and droplet generation in upper and lower GI endoscopy: whole procedure and event-based analysis. Gastrointest Endosc. 2022. PMC
・Chan SM, et al. Droplet nuclei are generated during colonoscopy and are decreased by the use of carbon dioxide and water immersion technique. Dig Endosc. 2023. PubMed
・Nylander D, et al. Bacterial contamination of endoscopist and assistant face visors during gastrointestinal endoscopy: a pilot study. Frontline Gastroenterol. 2023. PMC
・Johnston ER, et al. Risk of bacterial exposure to the endoscopist’s face during endoscopy. Gastrointest Endosc. 2019. PubMed
・Bacterial exposure risk to the endoscopist’s face while performing endoscopy(弘前大学). DEN Open. PMC
・Ye MD, et al. Quantifying aerosol and microbial exposure of healthcare workers in endoscopy suites: a time-based study. Front Public Health. 2025. PubMed


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