ロキソニン関連の論文【下部消化管出血の予防編】

※当ブログではアフィリエイト広告を利用しています
医学
dr-infoblog

30代の消化器内科医。普段は某大学病院で消化器がんの診療・研究をしています。妻と1歳の子供との3人暮らし。地元の公立小中学を卒業し、私立大学医学部を奨学金利用し卒業。20年間のauユーザー、趣味は旅行と最近はブログ。そんな医師の日常を記事にします。不定期更新。

dr-infoblogをフォローする

以前の記事で、ロキソニン+レバミピド(ロキムコ処方)は胃潰瘍予防の観点からは推奨できないことを、お伝えしました。

今回は単なる個人の趣味の範囲で、ロキソニンやレバミピドの下部消化管出血に関連する論文を調べたところ、興味深かったものについて、今回は2つの論文について独断と偏見でご紹介します。

“Preventive effect of rabamipide on NSAID-induced LGI using FAERES & JADER.”

2022年に Scientific Reports に掲載された、日本の研究グループによる報告です。

アメリカ(FAERS)と日本(JADER)の副作用報告データベースを用いて、NSAIDs(主にロキソニンおよびジクロフェナク)による下部消化管出血のリスクに対するレバミピドの予防効果を検討しました。

FAERS(米国)のデータでは有意な差はみられなかったものの、JADER(日本)ではレバミピドを併用することで下部消化管出血のリスクが明らかに低下するという結果が得られました。具体的には、

ロキソニン:OR 0.50[95% CI: 0.35–0.71]
ジクロフェナク:OR 0.43[95% CI: 0.27–0.67]

という結果で、オッズ比が1未満ですから、リスク低下を示しています*1

この差異には、人種差の影響が考慮されるべき点であること、また本研究は前向き試験ではないため、さらなる検証が必要と考えられます。

とはいえ、以前から私たちの臨床現場では「レバミピドは下部消化管、特に小腸出血の予防に有効」という認識がありました。この研究はそれを裏付けるものであり、大規模データを用いてその有用性を示した点で非常に意義深いといえます。

注意点:レバミピドの下部消化管出血に対する効果があるとする論文と、ないとする論文が存在しているということも、事実として知っておく必要があります。

*1 OR:オ ッズ比のこと。今回のようなケースコントロール研究でよく使われる手法。

Risk of Lower Gastrointestinal Bleeding in NSAID and PPI Users Compared with NSAID-Only Users: A Common Data Model Analysis

Liverand Gut誌に2025年3月に掲載された韓国の5施設による共同後ろ向き観察研究です。

本研究では、NSAIDsを90日以上継続して内服した患者を対象に、PPIを併用していた群の方が併用していない群に比べて、下部消化管出血(LGIB: lower gastrointestinal bleeding)のリスクが2~4倍に上昇していたことが報告されました。

こうした研究を読み解く際に私たち消化器内科医は「PPIを処方されている時点で、もともと出血リスクが高い患者群である」というバイアスが生じやすい点を、常に意識します。
しかし、この研究では傾向スコアマッチング(PSM)という後方視的研究でよく用いられる統計手法により、年齢・性別・併存疾患などの患者背景を丁寧に揃えることで、交絡因子の影響を可能な限り排除しています。

著者のMoonhyung Lee氏らは、この研究には以下のようなLimitationがあると述べています

後ろ向き研究であるため、考慮されていない交絡因子が存在する可能性
サブグループにおけるサンプルサイズが十分でない

つまり、前向き研究による比較検討や、そのメカニズムの解明が今後の研究に期待したいという内容です。いずれにせよ比較的大規模研究であり、たまたま出た結果(by chance的な)ものではないと考えるのが良さそうです。

また興味深いことに、NSAIDs単独群とNSAIDs+レバミピド(粘膜保護薬)群では、LGIBのリスクに差が見られなかったとも報告しています。つまり、先述した研究とは異なり、レバミピドの予防効果は今回の研究では示されなかったのです。

解釈の注意点

一見すると「PPIをNSAIDsと併用するのは危険では?」という誤解につながる恐れがありますが、私個人的にはこの結果を、長期NSAIDs内服に起因するLGIBは、PPIだけでは予防できない可能性があるという冷静な視点で受け止めるべきだと考えます。

つまり、臨床的にはPPIだけではなく、レバミピドを追加した方が良い患者群が存在する可能性を考える必要がある、ということです。

なお、本研究では小腸・大腸・直腸といった部位別の出血リスクや、憩室出血、虚血性腸炎、腫瘍出血、直腸潰瘍などの出血の種類については言及されていないため、どのような病態の出血リスクが上昇するのかまでは特定できていない点も押さえておく必要があります。

議論も多くあるとは思いますが、とても興味深い内容でした。

ロキソニンは使ったことがある方も多いと思いますが、がん性疼痛やリウマチ性疾患に対する疼痛を含め、早く、そして幅広い痛みに効くことで良い薬だと思います。ただ、出血などのリスクを伴う点には注意が必要です。

一般的に効果が強い薬であれば多くの患者さんに処方される一方で、さまざまな副作用報告がされることも事実です。

ロキソニンはあくまで症状緩和に役立つ、非常に優秀な薬だとは思います。しかし、その安全な使い方については未だ研究がされつつあるというのが現状です。

今後のエビデンスの蓄積に期待しつつ、面白い論文があればまたご紹介させていただきます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました