EUS-FNBのNeedle Tract Seedingの現状

EUS-FNB(超音波内視鏡下穿刺生検法)とは?

“膵がん”の確定診断のため必要な、組織を採取する方法のことです。

膵癌が疑われる部位から組織を採取し、病理診断に基づいて膵癌の確定診断をします。

EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)と合わせて、EUS-TA(組織採取法)ともいいます。

イメージとしては、FNAはキューっと中の細胞を「吸ってくる」、FNBはガシガシ細胞を「採ってくる」という違いがあります。

Needle Tract Seedingとは?

近年ではEUS-FNBによるマイナスの効果として“Needle Tract Seeding(NTS)という概念が知られるようになってきました。

EUS-FNBで膵臓の組織を採取する際、胃の中から胃の壁を貫き、膵臓の腫瘍に針を刺すことで膵臓の組織を採取します。Needle Tract Seedingというのはこの針を刺す時に、膵癌細胞が胃の壁などにばら撒かれてしまうことを指します。

このばら撒かれた組織が、時間をかけて大きくなることで、手術のあと、何ヶ月も経ってから見つかるということで、追加の手術や抗がん剤・放射線治療が必要になることがあります。

論文検索のきっかけ

近年ではこのNTSのため、組織検査をせずに手術や抗がん剤治療を行うのが良いかもしれない、という考えが膵癌診療を行っている医師の界隈でよく聞きますが、果たしてどうなのか?と考え,論文を検索してみました。すると、全国調査の結果が今年の日本消化器内視鏡学会雑誌に掲載されていましたので、簡単にご紹介します。

国内の報告から、アブスト抜粋し一部修正。

Gastroenterological Endoscopy 2024;66:312-26.

(日本消化器内視鏡学会雑誌)

結果:胃は0.875%、十二指腸は発生報告なし

経胃EUS-TA0.857%で観察

経十二指腸EUS-TA報告なし

NTS発症後の転帰:EUS-TA からNTS の発生までの期間の中央値→19.3 カ月、患者の生存期間の中央値→44 .7 カ月

NTS 部位:97.4%が胃壁

NTSの切除率:65.8%(完全に切除できた割合のこと)

患者生存期間:NTS 切除を行った患者では,NTS 切除を行わなかった患者よりも有意に長かった(P=0.037)という結果でした。

NTS発症率は高いのか、低いのか?

まず、NTSの発症率は0.875%であったことが注目点です。

私の記憶では国内最大の消化器系学会教育講演では3%前後程度との報告で「多すぎるわ」と思ったのですが、今回の報告は1%未満ということでした。もちろん、0%を目指して日々研究が進んでいるわけですが、膵がんを診断し治療に結びつける、というメリットと、これ以外診断つける方法がないことを考慮すると、許容されるべき数値ではないかと思います。

でも、自分の診療する患者さんでこういった経験は絶対にしてもらいたくないと強く考えていますので、より良い方法に関する研究については注視していきたいと思います。(私はEUSに関する研究はやっていないので)

十二指腸のNTSが報告されなかった理由は?

胃ではNTSがあるのに、十二指腸ではなかった理由は、

「対象患者が切除可能膵がんであったため」です。

つまり、「十二指腸からEUS-TAを実施して、播種していたとしても、手術で同時に切除できている」

というのが理由です。

つまり、膵頭部がんの患者さんでは、切除後のNTS率は限りなくゼロに近いということです。

しかし、だからと言って膵臓癌の完全切除後の生存期間が伸びる、というデータもありません。

一般的には膵臓のどこに腫瘍があっても、生存期間に関係はないと言われています。

ただ、今回の結果を受けて、切除を予定する患者さん(膵頭十二指腸切除術という、膵臓と十二指腸、胆管の一部と胃の一部を切除する方法)については、NTSを減らすために可能な限り十二指腸からのEUS-TAをトライすべきかなとも思いました。

NTSの予防方法とその研究は?

現在、国内ではNTSの実態を掴むために前向きに研究が進んでいるようです。

まだまだ研究段階ですので、予防方法などはありません。

今後の結果に期待したいところです。

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