食道の解剖学的部位はどこで分かれている?

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30代の消化器内科医。普段は某大学病院で消化器がんの診療・研究をしています。妻と1歳の子供との3人暮らし。地元の公立小中学を卒業し、私立大学医学部を奨学金利用し卒業。20年間のauユーザー、趣味は旅行と最近はブログ。そんな医師の日常を記事にします。不定期更新。

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内視鏡診療を始めたばかりの方にとって、食道部位を見分けるのは少し難しいかもしれません。
今回の記事では、食道の解剖学的部位と、それらの内視鏡における特徴を記載します。

1.食道の解剖学的部位の略語と解説

食道

食道は解剖学的に5つの領域に区分されます。
各領域には明確なランドマークがあるので、病変の評価や治療方針の決定にとても重要です。

Ce (Cervical esophagus) – 頸部食道

  • 範囲: 食道入口部(輪状軟骨下縁)から胸骨上縁まで
  • 切歯からの距離: 約15~20cm
  • 解剖学的特徴: 食道の最も狭い部分。甲状腺、反回神経、気管に近接している。
  • 臨床的意義: 穿孔リスクが高い。Zenker憩室は知らずに内視鏡を押し込むと、穿孔する恐れがあるので注意!

Zenker憩室
嚥下や嘔吐反射などにより、食道内圧が上昇した結果、食道壁が輪状咽頭筋と下咽頭収縮筋の間の解剖学的に弱い部分(Killian三角部)から押し出された結果形成された、後天的な憩室のこと。真性憩室。

Ut (Upper thoracic esophagus) – 胸部上部食道

  • 範囲: 胸骨上縁から気管分岐部(大動脈弓下縁)まで
  • 切歯からの距離: 約20~25cm
  • 解剖学的特徴: 大動脈弓、気管に近接している。気管分岐部では少し狭くなっている(生理的狭窄部)。

Mt (Middle thoracic esophagus) – 胸部中部食道

  • 範囲: 気管分岐部から下肺静脈下縁レベル。内視鏡的には気管分岐部からAeまでを2分割した上のほう。
  • 切歯からの距離: 約25~30cm
  • 解剖学的特徴: 心臓(左房)の後方に位置
  • 臨床的意義: 心嚢への浸潤、気管支瘻の評価が必要

Lt (Lower thoracic esophagus) – 胸部下部食道

  • 範囲: 下肺静脈下縁レベルから食道裂孔(横隔膜)まで。内視鏡的には気管分岐部からAeまでを2分割した下のほう。
  • 切歯からの距離: 約30~40cm
  • 解剖学的特徴: 下部食道括約筋(LES)を含む。バレット腺癌の好発部位でもある.
  • 臨床的意義: バレット食道、腺癌の好発部位。逆流性食道炎の主座

Mt,Ltの内視鏡的境界はやや曖昧。
ただ、放射線治療や手術の際には重要な参考所見となるため、正確な評価が必要です。

Ae (Abdominal esophagus) – 腹部食道

  • 範囲: 横隔膜から食道胃接合部(EGJ)まで
  • 切歯からの距離: 約38~40cm
  • 解剖学的特徴: 腹腔内に位置する食道(約2~4cm)
  • 臨床的意義: 噴門部癌との鑑別、食道裂孔ヘルニアの評価

EGJ (Esophagogastric junction) – 食道胃接合部

  • 定義: 食道の扁平上皮と胃の円柱上皮の接合部(SCJ: Squamocolumnar junction)
  • 内視鏡的目安: 胃小彎ひだの上端、柵状血管の下端。横隔膜脚の位置
  • 臨床的意義: バレット食道の範囲測定、噴門部癌・食道胃接合部癌の診断基準点

📝 メモ

これらの解剖的部位は、がん診療においてとても重要です。
例えば、ESDをする際にどの部位なのかを正確に把握していないと、治療するべき部位がわかりにくい時もありますし、ESD後の経過観察で注意すべき部位を見落としてしまう可能性があります。

また、SMT(粘膜下腫瘍)を鑑別するにあたり、好発部位がどの部位なのかという知識も内視鏡診療を行う上では重要ですので、この解剖を知っておくことが内視鏡診療の全ての基本になります。

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