とある薬剤師さんから先日、

NSAIDsの処方指導のとき「食後内服ですよ」と患者さんに伝えますが、
空腹時に内服すると何か影響があるんですか?
と質問を受けました。
確かに、NSAIDsは消化性潰瘍などの副作用の観点から、食後の内服が添付文書に記載がありますが、私も空腹時に内服した時の体への影響については全く考えたことがありませんでした。
今回は薬剤師さんからの質問をもとに、
✅ NSAIDsの内服のタイミングが食事の前と後とでどう違うのか?
✅ 薬剤指導の際に必要な知識について
✅ PPIの必要性について
論文を個人的興味に基づいてまとめました。
その結論からお伝えし、そのあとに参考になりそうな論文・指導に役立ちそうな補足知識としての論文をいくつかお示しします。もしよろしければ最後までご覧になってくださいね。
この記事は私見を含み、第三者の査読を受けていませんのであくまで参考程度にしてください。実臨床では必ず、ご自身で最新のガイドラインやエビデンスを参照してください。
また、この記事では薬剤指導のコンセプトを伝えるため、あえて具体的な数値をあえて明示していない箇所が多々あります。ご了承ください。
NSAIDs内服指導の具体例と重要なポイント
患者応対のテンプレ(例)
Q1 : 空腹時に飲んではいけないの?
A1 : 痛みが強ければ、食事に関係なく飲んで良い場合があります。でも、長期に内服する場合(1-2週以上)や、胃潰瘍・ピロリ菌感染の既往があるのなら、なるべく食後にするか、他の痛み止めを飲む方がいいです。胃薬があると安心です。主治医やかかりつけ薬剤師と内服のタイミングや胃薬の必要性についてはよく相談してみてください。
Q2 : 胃薬と一緒に飲まないといけませんか?
A2 : 人によります。若い人、胃潰瘍やピロリ菌感染の既往歴、抗血小板薬などの他の薬の内服がなければ、胃薬は必要ないケースが多いです。しかし、お腹の痛み、違和感などが出たら副作用の可能性がありますので、すぐに主治医またはかかりつけ薬剤師へ相談してください。
医師から患者さんへひとこと
医師は診断や専門的治療は行いますが、薬剤師さんは薬剤管理・治療の専門家で、医師はその知識にかないません。薬に関する質問は基本的に信頼できる「かかりつけ薬剤師」にまずするのが一番良いでと思います。
指導の際に確認しておきたいポイント3つ
✅ 内服理由:想定されるNSAIDsの内服期間を把握する。
✅ 病歴の聴取:胃潰瘍やピロリ菌感染などのNSAIDs潰瘍のリスクとなりうる既往歴を把握する。
✅ 併用薬に注意:特に抗血小板薬が出血リスクを上昇させうるため、PPIなどの併用が必須。
投薬指導に必要なエビデンスまとめ
空腹時と食後内服の違い:今回の最重要データ
まず、ほぼドンピシャの論文ありました。
2015年 British Journal of Clinical Pharmacology誌に掲載された、オックスフォード大学の研究グループの報告。38編の論文から、NSAIDsなどの空腹時と食後内服での薬剤の挙動について調べたものです*1
NSAIDsの食後内服で最高血中濃度(Cmax)が空腹時Cmaxの44-85%減少する
食後内服で最高血中濃度到達時間(Tmax)が空腹時Tmaxの1.3-2.8倍に延長
バイオアベイラビリティは空腹時、食後のいずれも変わりない
という結果が示されています。
つまり、空腹時ならすぐ効果が出現し、食後だと(空腹時内服に比べて)効くが、結局のところ患者さんの症状改善効果に大きな差はないかもしれない、ということだと捉えられそうです。
この報告はシステマティックレビューであるものの、少数の研究を集めた結果である点がlimitationとしています。
また、2014年に同一の研究グループの報告で、「急性疼痛に対して早期に鎮痛効果が出れば、その分追加の鎮痛薬が少量で済む」という報告があり*2、その点からはより強い鎮痛効果を求めるのであれば、空腹時内服でもいいかもしれません。
また、PPIは1日1回内服のものがほとんどですから、そういう点からは急性疼痛の緩和目的であれば、NSAIDsは空腹時でも良いのかもしれませんね。
NSAIDsは胃潰瘍や消化管出血のリスクを上昇させる
これはみなさん周知の通りと思いますが、NSAIDsによる胃潰瘍の発生頻度
海外の報告では14%前後*3
国内からの報告では10-15%ほど*4,*5
とされています。
そのメカニズムとして、NSAIDsのシクロオキシゲナーゼ(COX)活性阻害作用によるプロスタグランジン抑制効果が有名です。(このメカニズムはいずれ別記事で紹介しますね。)
PPIの予防内服が必要な人:消化性潰瘍のリスク因子を持っている人
結局のところ、空腹時をNSAIDsを内服することに関して現時点でエビデンスはありません。
しかし、現時点で唯一参考になるのは日本消化器病学会の発刊する「消化性潰瘍ガイドライン2020」です。これによれば、以下の患者さんが消化性潰瘍のリスク因子として認識されています。
出血性潰瘍の既往歴
消化性潰瘍既往歴
高用量NSAIDS, 他のNSAIDs併用者
抗凝固薬・抗血小板薬
ステロイド併用
ビスホスホネート併用
高齢者(≧65歳)
また、これらの因子が多くなればなるほど、消化管出血のリスクが高くなることが指摘されています。
つまり、こういった患者さんにおいてはNSAIDsの内服の際に予防的なPPIの内服が必要だと考えるべきでしょう。
逆にいえば、予防内服が不要な患者さんというのは、例えば短期間(1-2週間以内)の頓用内服の患者さんなどでしょう。現時点では個別に対応していく他なさそうです。
まとめ
NSAIDsやCOX2阻害薬を処方する際には、胃粘膜保護薬(特にPPIやPCAB)が必須な患者さんが存在する、という認識を持っておくことが重要です。
最初にお伝えした通り、今回はあくまで個人的な興味で検索したものであり、私自身が外来で行なっている説明に即した内容になっています。。実際の患者指導の際には、ご自身で各ガイドラインやエビデンスをご確認ください。
また、ロキソニン関連の論文はいくつかこのブログで紹介していますので、併せてごらんください。



参考文献一覧
(1) RA Moore, et al. Effects of food on pharmacokinetics of immediate release oral formulations of aspirin, dipyrone, paracetamol and NSAIDs- a systematic review. British Journal of Clinical Pharmacology, 2015.
(2) R.A.Moore, et al. Validating speed of onset as a key component of good analgesic response in acute pain. European Journal of Pain, 2014.
(3) Rostom A, et al. Cochrane Database Syst Rev 2002.
(4) 塩川ら. リウマチ1991.非ステロイド性抗炎症剤による上部消化管傷害に関する疫学調査.
(5) Scheiman JM, et al. Am J Gastroenterol. 2006.
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