「ロキソニン+ムコスタ」処方のエビデンスは?消化器内科の評価は?胃潰瘍予防の観点から考える

感冒や慢性疼痛の患者さんに対して、「ロキソニン+ムコスタ」(人によっては「ロキムコ」と呼びます)の処方、結構している人も多いと思います。他科の同期 (特に循環器内科、整形外科の医師)から、

整形外科の先生
整形外科の先生

ロキムコって、普通でしょ?!

とよく聞かれますが、実は消化器内科的にはあまりお勧めできません。いつもこの質問に答えるときに説明している、とある論文について紹介します。

なお、ロキソニンはNSAIDsという痛み止めの仲間で、女性で結構使っている人が多いのではないでしょうか。

ムコスタはレバミピドの商品名です。発売元は大塚製薬。

胃酸から胃自体を守る、「防御因子」または「盾」のような作用を強くすることを目的に開発されました。

Mucosal Stabilizer(粘膜の安定化因子)

Gastric Mucosal Prostaglandin Inducer (胃粘膜プロスタグランジンの誘導体)

といった名前の由来があるようです。

今度大塚製薬の人が薬剤説明会で病院に来たら聞いてみようと思います。

Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition誌に2007年に掲載された、

“Comparison of Prevention of NSAID-Induced Gastrointestinal Complications by Rebamipide and Misoprostol: A Randomized, Multicenter, Controlled Trial-STORM STUDY “

からです。

NSAIDsによる胃十二指腸潰瘍などの消化管合併症の予防効果について、

レバミピド(ムコスタ) vs ミソプロストール(サイトテック)の直接比較。

(レバミピドとサイトテックは多少機序に違いはあるものの、いずれもプロスタグランジンの産生を刺激することで、胃の粘液(防御因子)分泌を促進します。)

NSAIDsの投与開始時からレバミピド併用群、ミソプロストール併用群とに患者を分け、12週時点での胃潰瘍や胃粘膜障害、消化管出血といった合併症の発生率について調査されています。

調査開始時と、12週経過時点で胃カメラによる評価が行われました。

活動性の胃潰瘍は

レバミピド群 7/176人(3.9%) vs ミソプロストール群 7/156人(4.4%)で、

消化性潰瘍の高リスク群(ピロリ菌感染など)における検討でも

レバミピド 6/151人(4.0%) vs ミソプロストール 6/154 (3.9%)

であり、レバミピドがNSAIDs潰瘍の予防に有用であったと結論づけています。

この論文が発表された当時、今では広く使われている

「PPI(プロトンポンプ阻害薬)が使用される前の段階だった」

ということにまず注意が必要です。

胃潰瘍の予防に有効な薬がなかなかない中で、ムコスタの作用に注目して試験を組むことで、その有効性を示した、という点では非常に評価されるべきだとは思います。

なお、サイトテックはNSAIDsの長期投与時の胃・十二指腸潰瘍の予防としてのみ、保険適応があります。

ディスカッションでも触れられていますが、

「ドロップアウト率が高すぎる」という点です。

ムコスタ、サイトテックはそれぞれ最初207人と203人が対象となりましたが、

ドロップアウトした患者さんは

ムコスタ群は15%ほど、サイトテック群は24%ほどの患者さんが試験から離脱してしまい、解析対象から外れています。通常の試験ではなかなか考えにくい割合です。

理由としては、内服順守率が低い、胃酸関連の症状が出現した、患者からの要望、胃十二指腸潰瘍があったため同意の取り下げがあった、などなど。

ここまでのドロップアウト者がいるとなると、結果の再現性、妥当性の面から、正確な評価ができているとは考えにくいです。

日本消化器病学会から出ている「消化性潰瘍ガイドライン2020」によれば、

まず、NSAIDs内服により、胃潰瘍や出血性胃潰瘍のリスクは約19倍

ピロリ菌感染+NSAIDsがあると、なんと約61倍にまで 上昇するとされています。

胃潰瘍やピロリ菌の感染がある方はPPI(ボノプラザン、タケキャブ)が推奨され、出血性潰瘍の既往歴がある場合にはCOX-2阻害薬(セレコキシブなど)とPPIの併用が推奨されています。

胃潰瘍の既往歴のない患者さんにおいても、NSAIDs潰瘍の予防治療としてPPIが推奨されています。

いずれも複数のRCTやメタアナリシスで導き出された結果であり、私たち消化器内科医の「臨床感覚」と一致する形です。

注意点として、NSAIDs潰瘍の予防治療として、PPIは保険適応がありません。

しかし、PPI処方しないと患者さんへ不利益となるため、保険病名はきちんとつけて処方しておかないといけません。

「基本的にアウト」としたのは、週に1回程度内服する場合や、月に1-2日のみ内服する健康な人など、データのない例外もあるためです。

ただ、感覚としてですが、基本的に3-5日以上連続して1日2-3回ほどNSAIDsを内服する(可能性のある)患者さんに対しては、PPIは必ず出すようにしています。

あまり知られていませんが、NSAIDsによる胃潰瘍の出血で搬送される患者さん、よくいらっしゃいるんですよね、、、、、

ロキソニン+ムコスタ処方は、消化器内科医としてはお勧めしません。

ただ、今まで長年処方されていることから、ロキソニンもムコスタも、いずれもいい薬であることは間違いありません

ただ、その組み合わせに注意が必要、ということです。

記事を書いていて

目が疲れた、、、

頭痛もしてきた、、、

ロキソニン飲もうかな、、

PPIないから我慢しよう、、、

おわり

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