抗がん剤治療の「適応」を説明するうえで重要なこと(膵癌)

膵癌患者さんに対して、病院で抗がん剤治療を行う際、

適応(その患者さんがその治療に本当に適しているのか、耐えられうるのか、客観的に評価をすること)

について、特に高齢者の場合は慎重に判断する必要があります。

「抗がん剤治療を続けることは、その患者さんにとって本当にいいことなのか」

ということを私たちは常に考え続けなければならないからです。

今回は、高齢者膵癌患者さんへの治療適応について参考になる論文の紹介と、

高齢者膵癌の「適応」の判断と説明の際に重要視している点について、私見も含めて書いていきます。

H A Jung, et al. Treatment and Outcomes of Metastatic Pancreatic Cancer in Elderly Patients. Chemotherapy 2021;66:107–112.

他臓器転移を有する(=StageⅣ)高齢膵癌患者(70歳以上)に対する抗癌剤化学療法の治療内容、予後を比較検討するために167人を対象とした。2010年7月から2015年7月を対象期間として、患者の治療内容、予後に関して解析を行った。

167人のうち、21.6%(36人)が化学療法を受けていた。化学療法群の年齢中央値は74歳、緩和的治療(Best supportive care;BSC)群は78歳だった。生存期間中央値は、化学療法群9.2ヶ月(1.0-24.9ヶ月)、BSC群2.3ヶ月(0.1-31.8ヶ月)だった。化学療法群では50%がゲムシタビン併用療法、30%が2次治療へ移行していた。

高齢者膵癌患者に対する化学療法の導入率は低いことが分かったが、治療効果は過去の臨床試験の内容と遜色ないものであった。高齢者膵癌に対する化学療法の有効性、安全性についてはより今後の研究が期待される。

この研究では高齢者膵癌患者さんに対する、抗癌剤治療の導入について、比較的ポジティブな結果を示したものでした。抗がん剤はGnP療法(ゲムシタビン+アブラキサン)が最も多く、FOLFIRINOX療法、GEM(ゲムシタビン)+erlotinib療法、GEM単独療法がそれぞれ使用されています。

抗がん剤治療の適応は厳しくすべき(高齢ならECOG PS0-1)だが、化学療法は実施した方が患者予後の延長に寄与するようです。

これは適応を考えるときの参考になる論文で、特に高齢者の場合はECOG PS0-1という、

要するに心身共に若々しい人、

というのが基準になるだろうという結果でした。

治療の適応とは、簡単にいうと

腎臓や肝臓などの内臓機能が十分に保たれていて、

日常生活の身の回りのことをすべて一人でできる人、

というのが一般的です。

要するに、元気に生活ができている人、ということです。

(注:もちろん、例外はあります。)

普段から私は膵癌患者さんの治療前の説明で、

「抗がん剤治療の目的はなにか?」

ということを患者さんやご家族とあらかじめ、治療を開始するかどうかを考える段階で、最初から伝えるようにしています。

それは、抗がん剤は一般に、

「がんを消し去るものではなく、がんの進行を遅くすることで何かできる時間を延ばす」

という前提を共有することです。(これはあくまで膵癌StageⅣに限った話です)

そのうえで、

抗がん剤をやって得られる時間で何を達成しようとするのか?」

ということも聞ける方からは聞くようにしています。

家族と過ごす時間を確保するため

仕事のため

趣味の時間を過ごすため

孫の結婚式にでるため

など、人によって大きく異なります。

治療によって、これから過ごす時間が延びても、副作用のせいでその期間がつらいもの、

特に目的としていたことができなくなってしまっては本末転倒です。

抗がん剤をすると、症状のあるなしに関わらず、基本的に何かしらの副作用(ごく軽いものから重いものまでさまざま)はあります。

治療を続けていく中で待ち受ける、体調の変化、生活の変化、環境の変化に

心身ともに対応できるようにしていくためには、

こういった治療の前提である、「がんは消えない」という事実も共有すること、

そして、最初の段階から

「がんというものを患者さんと一緒に直視すること」

という視点が、

我々にとって治療の適応を考えるうえで重要なもう一つのことなのではないか、

と常々感じています。

おわり

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