出血性ショック患者の腎髄質と脾臓の造影不良は早期死亡と関連する

医学

救急科に出向していたとき、交通事故による腹部外傷の患者さんを何人か診療しました。
その時、造影CTを見ていてふと思ったのが、

造影CTで造影不良がある患者さんは、状態が急変しやすいな、、、

という印象をもったので、その時に調べた論文です。
なお、少し前の論文ですが、参考になったので記事にしてみました。

Dynamic Contrast-EnhancedCT of the Abdomen to Predict Clinical Prognosis in Patients With Hypovolemic Shock

Kanki A, et al. AJR Am J Roentgenol. 2011 Dec;197(6):W980-4.
  • dynamic造影CT
    • 造影剤を使ったCT検査で、時間をずらして撮影したもの。
    • カルテには単にCE-CT(contrast enhancement-CT)と書かれることが多い。
    • 時間をずらすことで、造影剤が体内に分布する“動き”が見えるので、dynamicCTと言われる。
    • 動脈のタイミングと静脈や臓器が映るタイミングなど、複数のタイミングで撮影することで、内臓の血流の評価(十分な血液が流れているか評価)をすることが可能に
  • HU ; Hounsfield Unit(ハンスフィールドユニット)
    • CTは白黒画像で、HUが高いほど白く、HUが低いと黒くなる。
    • 各臓器のCTにおける色の濃さのことがCT値、その単位がHU
  • 造影不良域:通常と比べて、造影剤による染まりが悪い(=白く映りにくい)領域のこと。
    1. 造影CTでつかう造影剤は、CT画像で白く移る。
    2. 各臓器ごとに、造影剤が入っていく程度には差がある=コントラストがつく
    3. 血液の巡りが悪いと、造影剤も臓器に届くまで時間がかかる
    4. 結果、造影剤による染まりが悪くなる = 造影不良域

【目的】

出血性ショック患者の予後予測にdynamic造影CTの有用性を検討した。

【手段・方法】

外傷による出血性ショックを呈し、腹部dynamic造影CTを実施した患者33例が対象。
出血性ショック患者の脾臓、肝臓、膵臓、腎臓(皮質と髄質)、副腎のCTにおける造影不良域が測定され、早期相と遅延相のCT値(単位:HU)を生存群と死亡群とに分けて違いを分析した。

【結果】

33例の出血性ショック患者のうち、15例が5週間(平均6日)以内に死亡し、残りの18例は生存した。
腎髄質のCT造影不良域は死亡例ではCT値(155.4 ± 60.1 [SD] HU)で、生存群(227.3 ± 47.3 HU)よりも有意に低かった(p = 0.001)。
造影CTの早期相における腎髄質の平均CT値には、両群間で有意差はなかった(それぞれ102.4 ± 61.7 vs 113.9 ± 43.5 HU)。
早期相における脾臓の平均CT値は、死亡群(90.8 ± 26.0 HU)で生存群(119.9 ± 33.9 HU)よりも有意に低値だった(p = 0.015)。
他のCT値では、死亡群と生存群の間には他の有意な差はなかった。

【結論】

dynamic造影CTの遅延相における腎髄質のCT値と、早期相における脾臓造影効果の低下は、出血性ショック(循環血漿量減少性ショック)患者のの予後不良を予測する有用なCT所見であると考えられる。

腎臓の髄質、脾臓の造影不良が予後に関連

今回の論文では

  • 腎臓遅延相の造影不良が予後不良
  • 脾臓早期相の造影不良が予後不良

という結果でした。

「腎臓の遅延相における造影不良というのは血流が悪い」
ということを示しているという点については、

腎臓の髄質には尿を作ったり濃縮したりする機能が詰まっている

ため、生命維持にとても重要な部位であり、十分な血流がこないと命に関わるようです。

脾臓の血流が悪いことと予後の関連の理由

最初理解できませんでしたが、(脾臓は早期相で染まりにくいことが多い)

筆者らがdiscussionで

「脾臓の血流は他の要因の影響を受けにくいため、造影不良であることは全身の血液が足りていないことの証拠である」

と結論づけており、根拠論文も明記されていました。なるほど、知りませんでした。

  • CT evaluation of shock viscera: a pictorial review. Emerg Radiol 2008; 15:1–11

CT撮像の条件について

CTは「16列のMDCTで、早期相は40秒、遅延相は210秒で撮像」と書いてあります。

現在は32列や64列のCTが主流ですので、CTの性能としては現在よりだいぶ劣ります。

現在の64列のCTだと、体内のさまざまな部分を

  • 3Dに構成して確認できる
  • 細かい血管などの詳細な病状の評価が可能

という点が大きく異なりますが、ただ、
造影効果があるかないかを見るだけなら、あまり大差はないように思います

私の働いている病院ではdynamic-CT(単純+2相撮像)の場合、
早期相30秒、遅延相120秒でやっているので、
撮像のタイミングは施設の差もあるのでしょうか、今後調べてみようと思います。

なお、CT値の測定方法はROI(region of interest)といって、
ある領域を円で囲って測定しているようです。

実は測定する場所を定義しても、人がカーソルを合わせて測定することになるので、結構大変だし、客観性を担保できているのかどうか、何もと言えません。
もちろん、恣意的にやっているわけではなく、何度か測定しているようです。

  • 腎臓遅延相の造影不良
  • 脾臓早期相の造影不良

今回は上記のCT所見が出血性ショック患者では予後不良と関連。という結果でした。

できれば、血液検査のデータとの関連について調べてあると、もっと妥当性のある結果だったのになと感じますが、自分でやってみようと思います。

実はこういうCTの造影効果と予後、という部分で臨床研究もやってみたいと思っていたので、
今回の研究を受けて、また新しいことができそうです。

個人的には勉強になりました。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

おわり

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