私は普段、消化器内科のなかでも、ERCPやEUSといった、膵臓や胆管に病気のある患者さん向けの検査や治療を行っています。
この間、看護師さんや放射線技師さんに向けて勉強会をしましたが、その時に
「ERCP関連の略語多すぎてよくわからないから、先生まとめてよ!」
と言われたので、作りました。
今回はその勉強会で実際に使ったスライドの中から、特に使用頻度の多い用語について、簡単な解説も加えてみなさんにお伝えします。明日からのみなさんの業務の役に立てれば幸いです。
- ERCP:Endoscopic Retrograde CholangioPancreatography
- 乳頭処置系(切開や拡張)
- 膵管の処置
ERCP:Endoscopic Retrograde CholangioPancreatography
日本語にすると、「内視鏡的逆行性胆管膵管造影」です。
なぜ逆行性なのかというと、胆管や膵管の流れとは逆の方向から検査を行うからです。
検査対象となる疾患や処置の内容は、以下のように多岐にわたります。
総胆管結石、胆管炎、胆石性膵炎
慢性膵炎による膵管狭窄
胆管がん、膵癌などによる閉塞性黄疸に対する胆道ドレナージ=減黄(げんおう)
膵・胆管がんの進展範囲の検討 etc….
ちなみに、ERCやERPといった表現を使うこともあります。
これは、胆管だけを造影して検査・処置する時にERC、膵管だけならERPと表現します。
合併症について
ERCP全体でごく軽度のものから重度のものまで、10-30%は起こりうると言われています。基本的には全くないか、「少しお腹痛いかな」、という程度ですが、膵炎や出血、胆管・消化管穿孔(せんこう:穴が開くこと)が重篤化しやすく重要です。
絶対におこらないよう、常に医師は慎重に丁寧に処置をやっています。
PEP:Post ERCP Pancreatitis (ERCP後膵炎)
ERCPのあと、膵炎が起きることがあります。全国報告や各種文献的には、おおよそ0-20%に発生しうるというのが、私たち医師の認識です。
軽度なものであれば、入院期間は大きく変わりませんが、重篤なものも発生しうるので、その予防は十分な対策が必要です。
最近ではジクロフェナクの坐薬を使用した方がよい、とガイドライン上も推奨がされていますが、実際のところ患者さんに了承いただけなかったり、病院によって方針が異なる場合があります。
適切な予防策については、患者さんごと、病院ごとにことなるので、もしこの記事を見ているのが患者さんであれば、主治医に予防策について相談してみるのが良いでしょう。
乳頭処置系(切開や拡張)
抗血栓薬の休薬期間に注意:
乳頭処置は基本的に内視鏡処置の中で、高出血リスクに分類されています(EPBDは低リスク)。原則、規定の休薬期間をもうけてから、処置をおこないます。
EST : Endoscopic Shincterotomy (内視鏡的乳頭切開術)
乳頭を凝固切開装置で切開することです。簡単にいうと、電気メスで乳頭を切って開くとうこと。
これをする理由としては、ERCP後膵炎の予防のためです。
乳頭は狭いうえに、胆管と膵管両方の出口でもあります。
ステントを入れたり色々やってるうちに、乳頭が浮腫んでしまい、膵炎になると言われています。(諸説あり)
EPBD:Endpscopic Papillary Balloon Dilation(内視鏡的乳頭バルーン拡張術)
乳頭を固めの風船で拡張することです。
径が12mm未満のバルーンを使用して乳頭を拡張する時にEPBDと表現します。
以下のEPLBDとは違い、出血低リスクに分類される処置で、合併症は少ないといわれています。
これは高リスクと通常の内視鏡検査との間に分類されるので、出血がないというわけではありません
実際のところ結構出血する時はします。使い方を間違えると、胆管損傷を起こすこともあります。
EPLBD:Endpscopic Papillary LargeBalloon Dilation(内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術)
EPBDよりも大きな、径が12mm以上のバルーンを使用して乳頭を拡張することです。
上のEPBDよりも大口径バルーンを使うので、出血高リスク手技に分類されています。
やらなくていいなら、EPLBDはやりたくないというのが正直なところ。しかし、実際には巨大であったり複数ある胆管結石の治療の際にはやらざるを得ません。
EPLBDの適応は厳密に事前に検討されますので、思ったほど合併症は多くないという印象があります。ただ、決してノーリスクというわけでもありません。
重要なのは絶対に合併症を起こさないよう、慎重に、丁寧な手技を心がける、ということです。
胆管の処置
EBS:Endoscopic biliary stenting(内視鏡的胆道ステント留置術)
胆管にステントを留置する行為自体そのもののこと。
ただ、EBSは最近では、胆管プラスチックステントのことを指します。
カルテ上には「EBS留置」と書かれることも多いですが、この時はプラスチックステントが入っているということです。
なお、ERBDと表記されていても、EBSは同義で使用されています。(が、現在ではもう使用されなくなっている略語です)
EGBS:Endoscopic GallBladder Stenting(内視鏡的胆嚢ステント留置術)
胆嚢内に入れるプラスチックステントのことです。ステントの先端は胆嚢内部、末端は十二指腸に出てきます。
このステントはEBSと同様に抜去・交換することもできます。
EBS、EGBSいずれにも言えるのですが、メーカーからは「2-3ヶ月以内に閉塞する可能性が出てくる」と言われています。交換が必要であれば、この期間を目安として行いますが、絶対に守らなければいけない基準ではありません。
あくまで重要なのは、患者さんの状態に合わせて処置の内容や時期を決めることです。
ENBD:Endoscopic Naso-Biliary Drainage (内視鏡的経鼻胆管ドレナージ術)
鼻から出てくる胆管チューブを留置することを指します。
そのため、カルテ上では「ENBDチューブを留置した」などと書かれることが多いと思います。
体外へ胆汁を排出することで、
胆管炎などの感染がよくなっているのか?
胆汁中に悪性(がん)細胞がいるのか?
ということを知ることができます。患者さんはしんどいですが、検査および治療する上で、医療者側としては指標にすることができるので、やむを得ない場合は留置します。
膵管に対して行う場合は、ENPD(Endoscopic Naso-Pancreas Drainage)となります。
SEMS:Self-Expandable Metallic Stent (自己拡張型金属ステント)
一般的に、胆管に留置する金属製ステント全般のことを指します。
膵癌や胆管がんによる閉塞性黄疸の患者さんに行う処置として一般的です。
その他に、胃がんや乳がんの転移による黄疸でも行うことがあります。
ちなみにこのステント、24-48時間ほどの時間をかけて拡張してきます。処置後に大体1-2日ほどおなかの違和感が続くことも多く、その症状のことを「ステント拡張痛」と表現します。
UCSEMS:UnCovered SEMS(アンカバータイプ金属ステント)
SEMSのうち、ステントのメッシュ部分がビニールで覆われていないタイプです。
ステントがずれてしまったり、細い胆管を塞いだりしないというメリットが知られています。
しかし、最近では以下のカバードタイプとの比較臨床試験が盛んに行われており、どちらの方がいいのか、世界中の医師が悩んでいるのが実情です。
病院によってFCSEMS,UCSEMSのいずれを使うのかは大きく異なりますし、患者さんの状態に応じて使い分けています。
申し訳ないのですが、患者さんの希望でステントの種類を指定することはできません。
CMS(FCSEMS):フルカバー金属ステント
SEMSのうち、ステントのメッシュ部分がビニールで覆われているタイプ。
膵癌による閉塞性黄疸ではよく使用されることもあります。
また、胆道出血などの時や、良性の胆管狭窄に対しても使われることがあります。
膵管の処置
EPS:Endoscopic Pancreatic Stenting (内視鏡的膵管ステント留置術)
対象疾患
・慢性膵炎/膵癌による膵管狭窄
・膵炎後の嚢胞(症状あり)
・膵管破綻、膵液漏 etc…
特に一番多いのは、慢性膵炎の患者さんで、腹痛などの症状がある膵嚢胞や、主膵管の破綻による膵液漏に対して行うケースです。
こういった場合には、まずはENPDを留置して膵癌の可能性がないか(以下のSPACEのこと)を検討してから、このEPSを留置することになります。
EPDS : Endoscopic Pancreatic Droppable Stenting? (内視鏡的膵管脱落ステント留置術)
最近では割と一般的で知られている用語ですが、実はEPDSは正式名称がありません。
私たちの病院では、膵管脱落ステントのことをEPDSと呼んでいます。
使うタイミングとしては、PEPのリスクが高いと考えられる患者さんで、膵管へガイドワイヤーが留置された方です。PEPの予防として有効とされているので、患者さんによっては留置することがあります。
なお、PEDSは数日もすれば自然に腸管へ落ち、便と一緒に排出される、比較的柔らかいステントです。
ENPD:Endoscopic Naso-Pancreas Drainage (内視鏡的経鼻膵管ドレナージ術)
EPSのところでも触れましたが、膵管に先端を留置して鼻から管の末端が出るようになっているものです。ENBDの膵管に先端がある版です。
特に早期の膵癌は診断が難しく、膵管狭窄のみの症例もあります。
膵液を体外に排出することで、以下のSPACEにより、がん細胞があるかどうかを確認することで、その患者さんに膵癌が隠れていないかを検査することができます。
SPACE:serial pancreatic juice aspiration cytological examination (連続膵液細胞診)
先ほどのENPDチューブから出てきた膵液を採取し、悪性細胞がいるかどうかを確認するものです。
最低5回から10回くらいは採取して提出する必要があります。
なぜここまでやるのかというと、ごく早期の膵癌では、膵液中にはごく少数しかいないからです。たくさん膵液を採取し、検査することで膵癌であった場合に診断ができるようになります。
その他処置系
ML:Mechanical Lithotripter (機械的破砕器具)
クラッシャーカテーテルとも言われます。硬い胆管結石を砕くためのデバイスのことです。
これが出現する機会はそこまで高くありませんが、時々使用するものです。
カルテ上では単に「クラッシャー」と書かれることが多いと思います。
クラッシュするくらいなので、処置中には「ガキン!!」という結石が砕けた感触があります。
砕いた破片が胆管を傷つけてしまう恐れもあるので、注意が必要です。
バスケット:結石除去用のカテーテルのこと
胆管結石を絡めとる、カテーテルです。
総胆管結石の治療の際に使われます。多くの病院でバスケットカテーテルが採用されており、第一選択として使用されることも多いです。
ただ、結石の特徴(大きさや形など)により使い分けているため、後述するバルーンカテーテルとどちらが優れているのか、ということは一概には言えません。
バルーンカテ:結石除去用のバルーンカテーテル
先ほどのEPBDやEPLBDと比べたら、だいぶ柔らかい風船です。
これで通常の胆管結石の治療は完遂できることが多いです。
さいごに
いかがでしたか?この記事がみなさんの役に立てれば幸いです。
これ以外にも略語は実はあるのですが、もしもここで紹介したもの以外で、わからないものなどがありましたら、コメントで教えていただければ幸いです。
胃カメラ、大腸カメラの略語はこちらの記事も参考にしてみてください。↓
おわり
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