大建中湯のエビデンスはどこにある?西洋医学の観点から

みなさんは大建中湯をイレウスで入院になった患者さんでよく使っているところをよく見かけませんか?

私の所属する消化器内科で入院になるイレウス患者さんは、単純性イレウスのうち、癒着性や腸炎によるもので、かつ腸管壊死がない(絞扼がない)症例に限られます。

特に癒着性イレウスは手術のあとで腹腔内の癒着により、腸の流れが悪くなっていますので、

再発予防策として、酸化マグネシウムをはじめとした便秘薬に加えて、漢方薬の大建中湯を使用することが多いです。しかし、大建中湯のエビデンスは限られているのが現状です。

唯一と行ってもいい、大建中湯のエビデンス論文になります。

Perioperative Administration of Traditional Japanese Herbal Medicine Daikenchuto Relieves Postoperative Ileus in Patients Undergoing Surgery for Gastrointestinal Cancer: A Systematic Review and Meta-analysis.

ANTICANCER RESEARCH 37: 5967-5974 (2017)
  • DKT:大建中湯, daikenchuto
  • PI(preoperative ileus):周術期イレウス
  • 周術期:一般的には手術が決定してから、手術をして退院するまでの期間のこと。「何日間」といった取り決めはない
  • 対象
    • 消化管悪性腫瘍に対する手術患者を対象とした7つの論文で1134人
  • 結果
    • 周術期イレウスの発症者
    • 大建中湯(DKT)群: 67人/588人(11.4%) vs DKTなし群: 87人/546人(15.9%)
    • RR 0.58 (95%CI; 0.35-0.97, p=0.04), I2=48%
  • 解釈:DKTは周術期イレウス発症リスクを40%ほど減少させるため,有用.各試験間のばらつきは軽度のため(I2=48%),実臨床に活かせそう.

「大建中湯に、イレウス予防のエビデンスがある」

という認識が消化器医の間でも一般的になっていますが、

よくよく調べてみると

「消化管悪性腫瘍の患者」において「周術期イレウスを予防する」

とはいえますが、

一方で、

「一般的なイレウスの患者全てには有効とは言い切れない」

というのが解釈としては妥当なラインでしょうか。

もちろん、副作用がなければ漢方薬は使用して良いとは個人的に思いますが、

どうしてもエビデンスを重視する昨今の医療において、

闇雲に大建中湯をイレウスの患者さんに処方するのもどうなのかな、と思いました。

大建中湯は周術期以外のイレウス患者さんにおいては、効果が実証されていないことがわかりました。

また、慢性便秘症においても大建中湯の使用を支持するエビデンスもありません

しかし、今回の検討は

西洋医学においては微妙

としか言いようがありません。

中国4000年の歴史で培われた知見はそれ自体が重要な意味を持っていますし、

適切に使用すれば、漢方薬は患者さんのメリットにもなるはずです。

結局、東洋医学を私たち医者は十分に勉強していないことが多いため、

「どのような患者さんが、大建中湯の恩恵を最大限受けられるのか?」

正当に評価できない、というのが本音です。

この記事を通して、自分の不勉強さを痛感してしまいました。

もっといい診療ができるよう、東洋医学も少しずつ勉強していこうと思います。

おわり

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