私は学生時代、大学の山岳診療部に所属していました。一般的にはあまり馴染みのない部活動だと思います。
2012年にTBS系列の日曜ドラマ、「サマーレスキュー〜天空の診療所〜」が向井理さん主演で全国放送されたとき、私はちょうど大学生でしたので、親戚や地元の友人などから
山岳診療部って、どんな部活なの?
と、よく聞かれたことを思い出しました。山岳部やワンダーフォーゲル部は他の大学でもあると思いますが、山岳診療部は医学部がある大学にしかありません。
山岳診療部を通じて、登山が好きになったものそうですし、医学部時代にはとても勉強になることが多かったように思います。その活動内容や、楽しさについて知ってもらいたくて、この記事を書くことにしました。
メインの活動:山小屋での診療活動(ボランティアの場合もある)
山小屋の開設している夏休みシーズンに特定の山へ登り、山小屋に約1週間滞在します。
その山小屋に診療所が開設されており、登山客の中で具合の悪くなってしまった方の診察をします。
山岳診療所があるのは、北アルプスの2500m以上の山が多いため、高山病を発症する方が増えてきます。(高山病に関する一般知識は別記事で解説予定。)
高山病は頭痛や嘔気、倦怠感、腹痛や下痢など、様々な症状を引き起こします。
他にも怪我をしてしまったり、けいれんしてしまったりなど、様々な体調変化を起こす方がいるので、
こういった患者さんの診療を行うのが、メインの活動になります。
医学生のみでも簡単な応急処置はできますが、医療行為(点滴や処方など)は医学生のみで行うことはできません。
そのため、山岳診療部のOBである現役医師が山小屋へ夏季休暇などを使って上山し、学生の診療活動の監督、および指導を行います。その際の流れとしては、以下のようになります。
- 学生が患者さんの問診、診察をとる
- 診察の結果から、どういう病気であるかを医師にコンサルト(相談)する
- コンサルト後に、医師同席のもと患者さんへの説明、処方をする
この診療活動を通して、学生自身が医学生であることを再確認し、勉強のモチベーションとなるわけです。
なお、正直に言うとこの活動はどちらかというと、「学生の実習」の側面があるということは否めません。患者さんには学生さんの問診、診察を受けていただくため、時間も診療全部を終えるまで、1~2時間前後かかることもあります。
ただ、学生はみんな一生懸命に網羅的な身体診察をしてくれるので、比較的精度は高いと思います。
診療所での医療行為は最低限のものです。正確な診断や治療については、地上のしかるべき医療機関で受けてください。
なぜ、「診療ボランティア」なのか?
大学にもよりますが、私の出身大学では通常の病院診療とは異なり、患者さんからは原則として診療費はいただいてませんでした。
それは先ほども書いた通り、学生さんの勉強の側面が大きいからです。
また、可能な医療行為が 酸素吸入、受傷部位の固定、点滴、縫合などのみであり、決して診療所としては十分なものではない、ということもあります。
(少なくとも私の出身大学に限ります。各大学の診療所の開設理由によっては方針が異なる可能性があります)
ただ、診療所の運営には最低限のお金はいりますので、「寄付」という形でお気持ちだけ頂くこともありました。
これがメインの活動が「診療ボランティア」である理由です。
もうひとつのメインの活動
こちらがサブの活動、のような書き方になってしまいましたが、実際には
「高地における研究」というのが、この山岳診療部がある一番の理由です。
大学の研究の一環として、高地における人体の変化をテーマに、毎年学生が計画し行うものです。
実は、この研究に関しては学生時代に私はあまり関わっていませんでした。なぜなら、他の運動部と兼部していたヒラ部員だからです笑
でも結構、山岳診療部とほかの部活(特に運動部)とを兼部する学生は結構多いです。
実際に医師になって、こうやってブログを書くようになってみると、山岳診療に関する論文から知識を集めてみたいと思うようになってきました。
今後は、山岳診療部で研究をする学生さんや、山岳診療に興味のある方、雑学的に興味を持ってくれた方に向けて、山岳診療に関する論文について、紹介をしていこうと思います。
どの大学、どの山に山岳診療部の診療所がある?
全国で同様の部活動がある大学は、検索した限りで約17大学ありました。
(参考:日本登山医学会HP, Wikipedia)
日本国内の大学で医学部があるのは82校ありますので、約20%の大学で診療所がある計算になります。
もしも今年の山に登山を考えている方の場合、Wikipediaで「夏山診療所」と調べて参考にしてみてください。→夏山診療所 – Wikipedia
目的地にもしかしたら山岳診療部によって開設された診療所があるかもしれません。
なお、登山は自力下山が原則です。山を下りて家に帰るまでが登山です。余裕を持った登山計画を立てるようにしましょう。
おわり
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