過度のアルコール摂取により、様々な病気が発症しやすくなる、ということは比較的世間的にも知られていることだと思います。
消化器内科の領域では、慢性膵炎と肝硬変が有名です。
実は今まで、
アルコール性慢性膵炎(ACP)とアルコール性肝硬変(ALC)の
双方を発症した患者さんにはほとんど出会ったことがありません。
なぜなのか、今回調べてみました。
疑問:アルコールによる慢性膵炎と肝硬変は合併しにくいのはなぜか?
#1 消化器内科医の同僚の意見
消化器内科医の同僚と話すところでは、
「もしかしたら患者さん本人が愛飲している酒の種類によるんじゃない?」
という説が比較的有力です。
ストロング缶や焼酎などが好きな人、ウイスキーやワインが好きな人など、
ACPかALCのいずれになりやすいのか、違いがあるのではないか、という何となくのイメージがあるようです。私も何となくそう思っていました。
例えば、肝硬変の人は比較的焼酎やストロング缶など、「やすく酔いたい」と言っている人が多い印象でした。
しかし、本当のところはどうなのか、知りたくなって検索してみたところ、今回の論文がヒットしました。
#2 論文、チェコからの報告
以下、概要です。(結果はご自身でもご確認ください。)
Spicak J,et al. Alcoholic chronic pancreatitis and liver cirrhosis: coincidence and differences in lifestyle. Pancreatology. 2012 Jul-Aug;12(4):311-6.
【目的】ACPとALCはいずれも長期間の過度のアルコール飲酒が原因であるが、合併は非常にまれであり、なぜ障害臓器が異なるのかも不明である。生活習慣から患者を解析した。
【手法】66人(女性6人)のACP患者、80人(女性16人)のALC患者を対象とした。アルコール消費量(58g/day vs 64g/day)に変わりなし。 ACPでは初回飲酒の年齢が15歳以下であった(28.5% vs 88%; p=0.03). ACP患者では20-30代で飲酒量が多く(43.6% vs 20.3%; p<0.01), 喫煙率が高く(92.4% vs 78.7%; p=0.04),さらに15歳未満での喫煙率も高かった(16.7% vs 3.7%; p=0.04).
ACP患者は教育レベルが低かった。ACP患者でALCを合併するのは16.7%、ALC患者でACPを合併するのは2.5%だった。
【結論】社会行動学的因子がACPとALCとの違いに影響があるようだ。若年者の飲酒および喫煙はACPと高い関連がある。
結論:未成年者の飲酒と喫煙、教育レベルも関連
論文では、未成年者の飲酒や喫煙は、
① 臓器発達が未熟であることで内臓へのダメージが大きい
② 未成年の時に始まった習慣は、その後の人生において修正が困難(長期間にわたり継続する習慣となってしまう)
③ 健康であることへの意識が低い人に多い(教育レベルが低い)
ということが指摘されています。
アルコールの種類による関係は?
どうやら、ビールやスピリッツの方が、ワインよりも両者で好まれる傾向でした。
理由として、discussionでは「廉価で入手しやすい」点が、若者の過剰飲酒を可能にしていたと考えられます。
一方で、肝硬変の患者さんでは、ワインを好む場合は「学歴」「収入」ともに高い傾向があったようです。
今回の結果のみでは断定できませんが、我々消化器内科医の感じている、
「酒の種類で慢性膵炎と肝硬変のいずれになりやすいのか、違うかも」
という感覚は、あながち間違いではないのかもしれません。
教育レベルの違いとの関係は?
今回の論文では、
ACPの方が教育レベルが低い傾向にある、と書かれています。
今回の論文でACP vs ALCでは、日本の教育制度に当てはめると
- 小中学校:66.7% vs 40%
- 高校:24.2%. vs 35%
- 大学:9.1% vs 25%
という違いがあったようです。
もちろん、学歴が全てではないですが、どうしても統計的に処理をおこなうと、最終学歴が若いと過剰飲酒につながりやすいかもしれません。
さいごに
今回はACP、ALCで患者さんの特徴が何だか違うかも、
という疑問の一部が言語化されましたが、結局のところ
日常的な過度の飲酒は危険である
未成年者の飲酒喫煙は有害である
ということだけは今回の記事を通じて、すべての人に伝えたいと思います。
休肝日は大事!
タバコは百害あって一利なし!
これからも患者さんにそう伝えていこうと思います。
ご覧いただき、ありがとうございました。
おわり
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