- FOBT:便潜血検査(Fecal occult blood test)のこと。詳しくは別記事で解説。
- 注:基本的に大腸癌があるかどうかを調べるもので、腸から出血しているかどうかを調べることを目的には開発されていません。
- 治療の方針、検査の方針については主治医の判断で自己責任でお願いします。
他科の先生から、よくこんな依頼が来ます。
FOBT陽性なので、カメラの検査をお願いします!
入院中にやっておかないと、なんだか体裁が悪いのでなる早でやりますが、
実際に胃・大腸カメラをやっている側の人間としては、
「FOBTは大腸癌スクリーニングなのになんでこんな検査やるんだろう、入院中で患者さんからokもらえるなら、必要ならカメラをやったほうが早けどな。予約もいっぱいだし、誰かにお願いするのもちょっと気を遣う、、、汗」
と感じています。
今回は消化器領域ではトップジャーナルの一つである、2020年Gastroenterology誌に掲載された、
“Overutilization of Fecal Occult Blood Test in the Acute Hospital Setting and its Impact on Clinical Management and Outcomes”
これは、「入院中のFOBTは治療方針決定に有用ではない」
という結果を証明した論文です。
ぜひ、明日からの診療の参考にしてもらえると幸いです。
論文紹介、アブスト
背景:FOBTは通常は大腸癌の非侵襲的スクリーニング検査として使用されてきたが、最近では入院患者に対する大腸癌のスクリーニング以外の検査として使用されるようになってきてしまっている。さらに言うと、FOBTの高い偽陽性率によって、不必要な検査が行われているという事実がある。今回我々は、2つの試験のうち、最初の段階として、入院患者におけるFOBTの実際に使用されている傾向について、評価を行うことを目標とし、そしてFOBTが治療方針の決定に役立っているのか、患者に有用であるのかを調査した。
手法:地域の教育病院(研修制度のある病院?)において2019年1月1日から2019年6月31日(?)の期間において後方視的チャートレビューを行った。患者統計、入院詳細、FOBTの実施理由、FOBTの結果が内視鏡実施にどう影響したか、臨床経過がどうであったのかを解析した。統計解析はSPSSver25を使用。結果752人の患者のうち、FOBTの結果が出ていたのは455人(60.5%)年齢平均と中央値は65歳、66歳。アフリカ系アメリア人が81.7%で最多。女性が53.6%でやや多かった。内科系からの依頼が85.1%と外科よりも多かった(p=0.0001)FOBT実施理由は貧血(53.4%)、消化管出血(以下GIB、32%)。FOBT陽性だったのはGIB(60/146人)のほうが貧血の人(41/243人)よりも多かった。貧血患者の83%の症例でFOBT陰性だった。FOBT陽性だった人のうち、34人(7.5%)しか内視鏡検査を受けなかった。GIBでかつFOBT陽性患者は最も内視鏡検査を受ける確率が高かった(p=0.0036)。一番多い内視鏡検査所見としては、胃潰瘍または胃炎であり、55.9%の症例で見られた。FOBT陽性における内視鏡実施に関するオッズ比は6.02(95%CI 3.39-10.7, p<0.05)だった。一方で内視鏡検査における陽性所見の有無についてはFOBTの陽性vs陰性の比較では差はなかった。(p=0.02)←重要 なお、アスピリン、NSAIDsの使用や鉄剤の内服、抗血栓薬、ビタミンCの内服とFOBTの結果との関連はなかった。
結論:不適切で過剰なFOBTは入院患者においては一般的に実施されるが、コストがかさむだけで治療方針の判断には影響を与えない。FOBTの使用は特に急性期疾患において実施すべきではない。この試験の第2相部分において、FOBTの導入に関する医療者の教育を目的とした研究をおこなう。この教育の有効性については6ヶ月のフォローアップ期間をおいて評価する予定である。
この結果を受けて正直な感想
FOBTは一般成人の大腸がんのスクリーニングに使ってください
治療をしなければならない消化管出血(胃潰瘍や憩室出血など)があるかどうか、貧血の原因を調べるというだけなら、入院患者さんであればFOBT不要で、カメラをやったほうがいいです。
ただ、FOBTを治療方針の判断に使うとしたら、いずれも外来患者さんで
「大腸癌がありそうだが、本人が渋っており決断できないとき」
くらいだと思います。
基本的に内視鏡やったほうがいいかどうか悩んだら、
先生方が悩む時間ももったいないし、患者さんもどうしたらいいかわからなくて不安になってしまうので、
消化器の医師へ相談するか、内視鏡を勧めるのがいいと思います。
この考えが浸透することで、入院中の不要な検査が減らせれば、患者さんの負担も減ります。
ただ、大学病院で他の科の先生に言うと、結構角が立つので、あまり言えないですけどね笑
少しずつ、研修医や下の学年の先生にはこっそりと伝えるようにしています。
これがゆとり世代の事なかれ主義というもんでしょうか、、、
これを見た誰かが、他の誰かにこっそりと教えてくれることを祈っています。
おわり
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