医療現場で意識したい:アサーティブ・コミュニケーション

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医者の日常生活

医療現場でのアサーティブの必要性と重要性

医療現場は、さまざまな専門職が連携して患者さんの治療にあたる「チーム医療」の場です。医師、看護師、薬剤師、検査技師、リハビリスタッフ、放射線技師など、それぞれの専門性を持つ人々が協働することによって、患者にとって最善の医療が提供できるようになります。

しかし、そこにはしばしば職業の違いによって「コミュニケーションの壁」が存在します。

例えば、「意見が言いづらい」、「遠慮して発言を控えてしまう」、または逆に「強く言いすぎてしまった、」といった場面は少なくないですよね。
そんな中で、近年注目されているのが「アサーティブ・コミュニケーション」です。

なぜアサーティブ・コミュニケーションについて記事を書こうかと思ったかというと、先日の内視鏡処置のあとで、看護師さんたちと「もっと効率的に検査や処置を回すにはどうしたらいいのか?」「安全な治療のためには何を気をつけたらいいのか?」ということについて話していたとき、このアサーティブ・コミュニケーションの必要性と重要性について気づいたからです。

この記事がみなさんのお役に立てれば嬉しいです。

■ アサーティブ(assertive)とは何か?

アサーティブ(assertive)とは、自分の意見や感情を正直に、かつ相手の立場も尊重しながら伝えるコミュニケーションのスタイルを指します。
攻撃的(aggressive)でもなく、受け身(passive)でもない、その中間に位置する「自己主張と相手尊重のバランス」が取れている状態です。

  • 「医師の指示に疑問があるけれど、立場上言いづらい」
  • 「看護師の判断に不安があるが、関係が悪くなるのが怖くて黙ってしまう」

こういった考えになることって多いですよね。しかし、これはアサーティブではありません。。

しっかりとした伝え方ができると、双方の信頼関係が損なわれず、かつ患者さんにとってもメリットになるはずです。
医療の本質というのは、医学という学問をもとに「患者さんのため」に治療を提供するというものですから、患者さんのためになる意見であれば、しっかりと伝えたいところです。

■ なぜ医療現場にアサーティブが必要なのか?

1. 患者中心の医療を実現するため

医療のなかで、医師の権限・決定権は大きいです。これは法的にも定められている部分が大きいためですが、一方で先ほどのように、「医者に対して意見をしづらい」という場面はかなり多く存在します。

しかし、医療はチームで行うものです。そのゴールは、「患者にとって最適な医療を提供すること」です。しかし、職種間の遠慮や上下関係によって意見が言えない場合、本来防げたミスや見逃された可能性のある治療選択肢が提案できないこともあります。

たとえば薬剤師が「この処方は副作用リスクが高い」と気づいても、医師に言いづらくてそのままにした結果、患者に不利益が生じることがあります。
ここで、アサーティブに「患者さんにとってリスクがあるため、再考いただけませんか?」と伝えられれば、結果は大きく変わるかもしれません。

たまにあるのが、H2ブロッカーの腎機能調整ミスによる汎血球減少や、メトロニダゾール長期投与によるMNZ誘発性脳炎など。こうした基本的な内容は、意外と知らない医師が多いい一方で、薬剤師さんの方がよく知っていますから、しっかりと情報共有をするべきです。

2. チーム間の信頼と連携を強化するため

アサーティブなコミュニケーションは、相互の信頼関係を生み出します。
「この人は率直に話してくれる」「意見を言っても頭ごなしに否定されない」といった安心感が、職種間の距離を縮め、よりよい連携につながります。

逆に、非アサーティブなやり取り(攻撃的または受け身)は、誤解やストレスの原因になり、チームの雰囲気を悪化させる可能性もあります。

3. 医療者自身のバーンアウトを防ぐため

医療現場は高ストレス環境です。意見を押し殺してばかりいると、心理的疲労が蓄積され、燃え尽き症候群(バーンアウト)につながることもあります。アサーティブに自分の思いを伝えられることは、自己肯定感や達成感につながり、心の健康を守ることにもつながります。

■ 医師視点の医師・看護師・薬剤師それぞれのアサーティブの重要性

実際に病院で働く中で、医療現場のアサーティブについて考えてみました。

医師の場合:あなたは王様ではありません

医師は意思決定の責任者であり、チームの中心的存在として見られがちです。しかし、正直にいいますと診断や治療・手術については詳しくても、看護・薬剤知識はそれぞれの専門家よりはありません。医師は医療のピラミッドの頂点ではなく、医療チームの一員であるということをきちんと自覚するべきです。

とは言っても、診療方針を最終的に決めるのも医者ですし、責任も大きいです。そのため医師歴が長くなればなるほど、徐々に独りよがりの診療をするようになってくることもあります。周りから見れば、「わがままな人だ」と思われるようになってきます。(上の先生ほどそうですよね)

そのため、診療方針やその他のことについても、考えていることやわからない・不明確な部分をきちんと他職種スタッフと共有したうえで、「他の意見もぜひ聞かせてください」という姿勢をもつことで、意見交換が活発になり、最終的に患者さんにとってより良い判断が可能になります。

医療は医者一人では成り立っていません。個人的にはむしろ、医療の80−90%ほどが周りの看護師さんや薬剤時、リハスタッフなどによって支えられていると感じています。

独りよがりの診療は、患者さんのためになりません。そこの医者の皆さん、あなたの診療方針や決定は本当に正しいですか?周りの意見をよく聞いてみると、スムーズに治療が進みますし、何より気持ちが楽になりますよ。

看護師さんの場合:患者さんをきちんとみている唯一のスタッフです

患者に最も近い存在である看護師は、日々の観察やケアの中で重要な気づきを得ることが多いと思います。特に、病棟看護師さんは日夜問わず働き続けており、病棟を守ってくれる存在です。

言い換えれば、病棟外来問わず、患者さんの本当の姿を直接目の当たりにしている存在です。医者には患者さんはいい顔をしていても、看護師さんに対しては厳しい口調で対応されることもあります。不穏患者さんの場合には手や足が出て危険を伴う場合もあります。

特にこのように患者さん自身のみならず、病棟スタッフに危険が起こりうる場合には、冷静で毅然とした対応でどんな医師にも意見をしなければならないこともあるでしょう。

その際にはアサーティブに「〇〇さんの様子が気になり、こうした検査などの必要性はありますか」「スタッフが危険です。〇〇を対応してください。」と冷静に根拠を持って簡潔に伝えることで、意見が伝わりやすくなります。

特に柔らかい口調でクリアカットに意見をしてくれる看護師さんほど、医師から好まれる傾向があるようです。(私見含みます)

とは言っても、横柄な医者はいますからね、、医者がアサーティブになれというのが看護師さんからしたら正直なところだと思います。

薬剤師さんの場合:薬剤治療の最後の砦

薬剤師は薬の専門家として処方の妥当性や相互作用をチェックする役割があります。治療提案だけでなく、投薬ミスを防ぐという意味でも、薬剤治療に関する最後の砦と言っても過言ではありません。

妻は薬剤師ですが、家で話していても治療の基本的な使い方やいろんな医師や病院の処方をみているため、私たち医師よりもはるかに知識や経験があると感じます。

病院・薬局問わず、薬剤師の場合は医師の指示に対し、専門性の観点から必要な指摘をするのは当然のことです。アサーティブに「〇〇の薬は□□との併用でリスクが高まるため、変更はいかがでしょうか」「この薬剤は週1回で、連日処方でオーダーされているので修正してください(とんでもないミスです)」などと伝えることで、建設的な関係が築けますし、重大な医療アクシデントを防ぐことができます。

ただ、薬剤師さんの一番の難しいところは医師と顔を合わせる機会が少ないということです。電話口のみのやり取りになることが多いので、アサーティブ・コミュニケーションの難易度は高いように感じます。
薬剤師さんはほとんどアサーティブな方がおおいので、問題なのは偉そうにしている医者そのものなんですがね、、、、汗

■ アサーティブを実践するためのポイント

アサーティブ・コミュニケーションの重要性についてはここまででわかってきましたが、実際にどのように情報を伝えればいいのでしょうか。ポイントは以下の4つです。

✅ 事実と感情を分けて話す
 →「私はこう感じました」「患者さんの状態がこのように変化しました」と事実に基づいて冷静に伝えるべきです。

✅ 相手を責めない表現を使う
 →「あなたが間違っている」ではなく「私には〇〇のように見えました」「このように考える理由は…」と説明するのがよいです。

✅ 自分の考えを明確に伝える
 →曖昧な言い方を避け、「〜だと思います」「〜してほしいです」とはっきり表現するようにしましょう。

✅ 情報を簡潔に伝える
 →特に病院内では電話でのやり取りが多いので、「えーっと」「なんだっけな、」といったお互いの時間を無駄にしないような情報のやり取りを意識しましょう。

■ まとめ

アサーティブ・コミュニケーションは、チーム医療における信頼関係を築き、患者にとって最良の結果を導くための重要なスキルです。医師、看護師、薬剤師などそれぞれが、自分の専門性と立場を理解し、互いを尊重しながら率直に意見を交わせる環境があってこそ、医療の質は高まります。

医療現場だからこそ、立場や上下関係に縛られず、患者さんのために「伝えるべきことを、適切に、率直に伝える」勇気が求められます。

みなさんもぜひ、アサーティブ・コミュニケーションを取り入れ、より良い医療を目指していきましょう。

dr-infoblog

30代の消化器内科医。普段は某大学病院で消化器がんの診療・研究をしています。妻と1歳の子供との3人暮らし。地元の公立小中学を卒業し、高校・大学受験。私立大学医学部を奨学金を使って卒業。そんな医師の普段の生活にまつわるあれこれを記事にします。

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